「慢性痛はすぐ治らないって言うことは、もしかしてその人の腕が悪いからですか?」
患者様からこのような質問をまれに受けることがあります。
結論からお伝えすると、慢性痛は
治療技術の問題ではなく、痛みの性質そのものが変化している状態です。
医学的には、急性の痛みと慢性痛は別の病態として扱われています。
慢性痛とは何か?医学的な定義
慢性痛は一般的に
「3か月以上続く痛み」
と定義されています。
これは世界共通の基準です。
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国際疼痛学会(IASP)
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WHO(ICD-11)
この「3か月」は単なる期間ではなく、
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組織の回復期間を超えている
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神経の働きが変化している
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脳の痛みの認識が固定化している
という病態の変化の目安です。
急性痛と慢性痛は“別の病気”
| 項目 | 急性痛 | 慢性痛 |
|---|---|---|
| 原因 | 組織の損傷 | 神経機能の変化 |
| 治療反応 | 早い | 段階的 |
| 回復期間 | 数日〜数週 | 数か月以上 |
| 主役 | 炎症 | 神経・脳 |
慢性痛は、
「壊れているから痛い」のではなく
「神経が痛みを覚えてしまっている状態」
です。
なぜ3か月を超えると治りにくくなるのか
① 神経が敏感になる(末梢感作)
痛みが長く続くと
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神経の反応閾値が低下
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少しの刺激でも痛みとして認識
が起こります。
② 脳が痛みを学習する(中枢感作)
研究では慢性痛患者に
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脳の痛みネットワークの変化
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下降性疼痛抑制系の低下
が確認されています。
つまり、
痛みが「身体の問題」から「神経システムの問題」に移行します。
③ 心理・生活要因が絡む
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不安
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睡眠不足
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運動不足
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ストレス
これらが神経の興奮性を維持し、痛みが固定化します。
慢性痛が「すぐ治らない」のは普通の経過です
慢性痛は
数か月かけて形成された神経の状態
です。
そのため回復も
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徐々に
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段階的に
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神経の再学習として
進みます。
これは技術不足ではなく、病態の性質そのものです。
鍼灸が慢性痛に関われる理由
鍼刺激は次のような作用が確認されています。
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神経周囲の血流改善
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脊髄レベルの痛み抑制
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下降性疼痛抑制系の活性化
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自律神経の調整
慢性痛は構造ではなく神経の問題のため、
神経に作用する介入が重要になります。
慢性痛治療の現実的な見通し
多くの臨床研究では、
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12週間(約3か月)
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複数回の介入
で改善が評価されています。
単回施術で消えるケースは例外的です。
重要:改善のサイン
慢性痛は
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痛みの強さが減る
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出る頻度が減る
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回復までの時間が短くなる
という順序で変化します。
「ゼロになる前に良くなっている段階」が存在します。
当院の考え方(伊東市/鍼灸)
慢性痛は
構造 → 神経 → 生活
の順で整理していきます。
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痛みの出方
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神経の反応
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日常動作
これらを総合して施術を組み立てます。
「原因不明」と言われた痛みの多くは、
神経機能の段階に移行しています。
反証可能性(この説明が誤りになる条件)
今までの説明が「間違いだ!」となるためには
以下の条件が科学的に証明されればOKです。
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慢性痛が単回治療で恒久的に消失する再現性ある研究が多数存在する
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神経の可塑性が慢性痛に関与しないという脳科学的証拠
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3か月という慢性痛の定義が国際的に撤廃される
残念ながら現時点ではそのような証拠はありません。
思考の型
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慢性痛の定義 → 演繹(国際基準から説明)
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神経変化・研究 → 帰納(臨床研究の積み上げ)
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治療経過の説明 → 統合(演繹+帰納)
まとめ
慢性痛は
「治りにくい痛み」ではなく
「治り方が急性痛と違う痛み」
です。
回復には
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神経の再教育
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身体の再適応
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生活の再設計
が必要です。
これは時間がかかるものですが、
適切な介入で変化していきます。